Amazon Location Service で構築する位置情報アプリケーション - 地図・ジオコーディング・トラッキング
地図表示、ジオコーディング、ルート計算、デバイストラッキングの 4 機能で位置情報アプリケーションを構築する実装パターンを紹介します。
Location Service の主要機能
Amazon Location Service は地図表示、ジオコーディング (住所から座標への変換)、逆ジオコーディング (座標から住所への変換)、ルート計算、ジオフェンス、デバイストラッキングの 6 つの機能を提供します。2024 年 11 月の刷新で API の体系が変わり、地図は geo-maps、場所の検索は geo-places、経路は geo-routes という 3 つの独立した名前空間に分かれました。この照会系 3 系統は地図リソースや検索インデックスを事前に作成する必要がなく、API キーを発行すれば呼び出せます。一方で、デバイスの位置を蓄積するトラッカーと、ジオフェンスを収めるコレクションは、現在も AWS リソースとして作成してから使います。データの提供元は 2026 年 8 月時点で Esri、HERE、東南アジアを対象とした GrabMaps で、地図タイルについては旧世代の地図リソースを経由する場合に限り Open Data 由来のスタイルも選べます。カバー範囲や利用条件は提供元ごとに異なるため、対象地域と用途に合わせて選びます。
地図表示とジオコーディングの実装
Web アプリケーションへの地図埋め込みは MapLibre GL JS を使用します。geo-maps の GetStyleDescriptor が返すスタイル記述子の URL (https://maps.geo.<リージョン>.amazonaws.com/v2/styles/Standard/descriptor に配色やバリアント、API キーを付けた形) を MapLibre の style に渡すだけで、インタラクティブな地図が表示されます。ブラウザから直接呼ぶ照会系は API キーによる認可が基本で、キーには有効期限と、HTTP リファラーやアプリ識別子による利用範囲の制限を設定できます。ただしトラッカーへの位置の書き込みやジオフェンスの管理、キー自体の管理には IAM や Amazon Cognito による認可が必要なため、公開ページの地図はキー、位置を送る側は Cognito の認証済みロール、という二層構成が扱いやすくなります。住所検索は geo-places の Geocode が住所文字列から座標を返し、ReverseGeocode が座標から住所を返します。ほかに全文検索の SearchText、周辺検索の SearchNearby、入力補完の Autocomplete と Suggest、識別子から詳細を引く GetPlace が揃っています。検索には近い候補を優先するバイアス位置 (BiasPosition) や、国コードなどで候補を絞り込むフィルターを指定でき、日本国内の住所検索に寄せた設定が可能です。なお、SearchText ではバイアス位置 (BiasPosition)・矩形フィルター (Filter.BoundingBox)・円形フィルター (Filter.Circle) のうちいずれか 1 つだけを指定する排他仕様になっています。
ジオフェンスとデバイストラッキング
ジオフェンスは仮想的な地理的境界を定義する機能です。境界の形状は円形、ポリゴン、マルチポリゴンから選べ、頂点の多い形状は Geobuf 形式で登録できます。ジオフェンスコレクションをトラッカーに関連付けると、位置更新のたびに評価が走り、デバイスの進入・退出が EventBridge へイベントとして届きます。イベントは source が aws.geo、detail-type が Location Geofence Event で、detail に ENTER か EXIT の種別、ジオフェンス ID、デバイス ID、位置と取得時刻が入るため、Lambda や Step Functions を購読側に置けば通知や記録を自動化できます。配送車両が配送エリアに到着した際の通知、従業員が特定エリアに入った際の打刻自動化、子供が学校エリアから離れた際のアラートなどに活用できます。到達を先回りしたい場合は ForecastGeofenceEvents があり、デバイスの位置と速度を渡すと境界を越える予測時刻が返ります (速度を省略すると現在の内包判定だけを返します)。トラッカーはデバイスの位置情報を収集・保存するコンポーネントで、位置の更新を API で送信すると、履歴は 30 日間保持されます (2026 年 8 月時点の公式ドキュメント記載値)。位置には精度のほか、速度や進行方向といった任意のメタデータを 3 つまで添えられます。冗長な更新を削るフィルタリングは 3 方式から選べ、既定は 30 秒あたり 1 件だけ保存する TimeBased です。ほかに 30 m 未満の移動を無視する DistanceBased、測定精度の範囲内の移動を無視する AccuracyBased があります。静止している車両が送り続ける位置を間引けば、次の節で見る位置更新の課金件数をそのまま減らせます。
Location Service の料金
(2026 年 8 月時点・米国東部 (バージニア北部) とアジアパシフィック (東京) の 2 リージョンで個別に確認。両リージョン同額)Location Service は保有ではなく利用量で課金され、課金の軸は地図タイル、静的地図画像、場所の検索、経路計算、位置の書き込み・読み出し・完全性検証、デバイスの削除、ジオフェンスの評価・管理・保有、到達予測に分かれます。地図タイルは 1,000 タイルあたり 0.04 USD、画像 1 枚を返す静的地図は 1,000 リクエストあたり 0.50 USD です。場所の検索は応答の区分で単価が変わり、1,000 件あたり Core が 0.50 USD、Advanced が 1.50 USD、結果を保存する場合が 4.00 USD、入力補完 (Autocomplete・Suggest) は 1,000 リクエストあたり 0.20 USD です。経路計算も同様に 1,000 経路あたり Core が 0.50 USD、Advanced が 1.50 USD、Premium が 4.00 USD で、到達圏の算出や道路へのスナップのように Core の区分を持たない操作もあります。どの区分になるかは応答の PricingBucket に出るので、想定する操作で 1 度呼んで確かめるのが確実です。位置の追跡は、デバイス 1 台あたりの月額ではなく送った位置の件数で決まり、段階課金です。1,000 件あたり、月 50 万件までが 0.05 USD、500 万件までが 0.035 USD、5,000 万件までが 0.025 USD、それを超える分が 0.0125 USD です。位置の読み出しとデバイスの削除はそれぞれ 1,000 件あたり 0.05 USD、位置の完全性検証 (PositionVerify) は 1,000 件あたり 1.00 USD です。ジオフェンス評価は 1,000 件あたり月 25 万件までが 0.16 USD、200 万件までが 0.11 USD、2,500 万件までが 0.07 USD、それを超える分が 0.06 USD で、ジオフェンスの作成・読み取り・更新・削除・一覧といった管理操作は 1,000 件あたり 0.05 USD、到達予測は 1,000 件あたり 1.75 USD です。利用量ではなく保有に対して課金されるのはジオフェンスで、登録済み 1,000 件あたり月 0.20 USD かかります。10 秒ごとに位置を送る車両を 100 台走らせると 1 日で 86 万件を超えるため、フィルタリングでの間引きが費用にそのまま効きます。無料枠は 2 系統が併存しており、料金ページの「最初の 3 か月」の表と、2025 年 7 月 15 日以降に作成したアカウントへ配られる無料利用枠クレジットのどちらが適用されるかで残量が変わるため、実際の残りは請求ダッシュボードで確認します。月間の利用が 5,000 USD を超える規模ではボリュームディスカウントの相談ができます。商用の地図 API との費用差は利用の内訳で大きく変わるので、上の軸ごとに自分の想定件数を当てて見積もるのが確実です。
データプロバイダーの選択
Location Service は、地図や場所の検索の裏側で外部のデータプロバイダーを利用します。2026 年 8 月時点の提供元は Esri、HERE、東南アジアを対象とした GrabMaps で、旧世代の地図リソースを経由する場合に限り Open Data 由来の地図スタイルも選べます。カバー範囲や住所表記の粒度、地図の見え方には差があるため、対象とする地域とアプリの用途に照らして確かめます。利用条件も一律ではありません。AWS のサービス条項には、Esri のデータを自社の事業資産の追跡や経路計算に使う場合に書面での同意を求める条項があり、HERE のデータでは日本を対象とした結果の保存が認められていません。GrabMaps は提供されるリージョンが限られます。検索結果を自社のデータベースへ保存したい場合は、リクエストの IntendedUse で保存用途を指定する必要があり、単価も保存しない場合とは別になります。リージョンによって使える操作や地図スタイルが異なる点にも注意が必要で、公式の提供状況表で対象リージョンを確認してから設計します。機能要件と条項の両面から提供元を見極めることが、品質と法務の両立につながります。
ルート計算と到達時間の活用
geo-routes は 5 つの操作で経路を扱います。CalculateRoutes は出発地と目的地 (経由地を含む) から経路と所要時間を返し、OptimizeWaypoints は複数の立ち寄り先を回る順序を組み替えて総移動を短くします。CalculateRouteMatrix は多数の出発地と目的地の組み合わせの所要時間をまとめて返すので、最寄りの拠点を選ぶ、配車を割り当てるといった判断に使えます。CalculateIsolines は指定した時間や距離で到達できる範囲を面として返し、商圏や配達可能エリアの可視化に向きます。SnapToRoads は GPS のぶれを含む軌跡を実際の道路に沿わせ、走行実績の集計を扱いやすくします。いずれも交通手段 (乗用車、トラック、歩行者など) や避けたい道路の条件、トラックの寸法や重量といった制約を指定でき、実態に近い経路を得られます。地図表示と組み合わせれば、ユーザーに分かりやすく経路を提示でき、配送やナビゲーションのアプリケーションを構築できます。
プライバシーとセキュリティ
位置情報は機微なデータであり、慎重な取り扱いが求められます。場所の検索では、リクエストの IntendedUse で結果を 1 回の利用にとどめるか保存するかを明示する仕組みになっており、保存する必要がなければ既定の単回利用のまま呼び出して、不要なデータを残さない運用ができます。提供元の条項による制約もあり、たとえば日本を対象とした HERE のデータでは結果の保存が認められていません。アクセスは IAM で制御し、ブラウザから呼ぶ照会系は API キーに有効期限とリファラー制限を付け、位置の書き込みやジオフェンスの管理は認証済みの主体だけに許可します。デバイスの位置を追跡する用途では、収集の目的を明示し、利用者の同意を得る仕組みを整えます。トラッカーの位置履歴は 30 日で消えますが、それより長く残す必要がある場合は自前の保存先を用意し、保持期間と削除まで含めて設計します。利便性を追求しつつ、利用者のプライバシーを守る設計を両立させることが、信頼される位置情報アプリの条件です。
ユースケースとフロントエンド統合
Location Service は、さまざまなアプリケーションに組み込めます。配送状況をリアルタイムに地図上で見せる配送追跡、車両や資産の現在地を把握する管理、近くの店舗を探す店舗検索などが代表例です。フロントエンドでは、地図描画ライブラリと組み合わせて、取得したデータを視覚的に表示します。ジオフェンスを設定すれば、特定のエリアへの出入りを検知して通知やアクションを起動できます。地図・検索・経路・追跡という基本機能を要件に応じて組み合わせることで、自前で地図基盤を構築せずに、多様な位置情報サービスを実現できます。
まとめ
Location Service は、地図の geo-maps、場所の検索の geo-places、経路の geo-routes という 3 系統に、トラッカーとジオフェンスを組み合わせて位置情報アプリケーションを構築できるサービスです。照会系はリソースを作らず API キーで呼べるため、地図と検索だけなら小さく始められます。他社の地図 API から移す場合は、AWS が公開している Amazon Location Migration SDK で既存コードの呼び出しを置き換える経路が用意されており、費用は課金の軸ごとに想定件数を当てて見積もります。位置の書き込みは IAM や Amazon Cognito で守り、ジオフェンスの進入・退出は EventBridge へ流すことで、イベント駆動の位置情報アプリケーションへ広げられます。
参考資料 (AWS 公式)
本ページの一次情報は AWS 公式サイトおよび公式ドキュメントです。最新の仕様 / 料金は次の公式ページで確認できます。
本ページと公式ドキュメントの記述が食い違う場合は、公式ドキュメントを正としてください。