Amazon Chime SDK で組み込むリアルタイムコミュニケーション - 音声・ビデオ・メッセージング
自社アプリに音声・ビデオ会議と PSTN 連携を組み込む SDK の実装パターンを紹介。遠隔医療やオンライン教育など、コミュニケーションが差別化要因となるサービスに有効です。
Chime SDK の概要と Chime サービスとの違い
Chime SDK は自社アプリケーションにリアルタイムコミュニケーション機能を組み込むための開発キットです。2026 年 2 月 20 日に AWS がサポートを終了した会議アプリの Amazon Chime とは別の製品で、Chime SDK は 2026 年 8 月時点も提供が継続されており、独自のアプリケーション UI に統合して使用します。Meetings API で音声・ビデオ会議を作成し、Messaging API でリアルタイムチャットを実装し、PSTN Audio API で電話回線との接続を行います。JavaScript、iOS、Android の SDK が提供されており、React や React Native のコンポーネントライブラリも利用可能です。WebRTC の実装、メディアサーバーの構築・運用、シグナリングサーバーの管理、コーデックの最適化といった複雑さを抽象化し、アプリケーション側の実装を API 呼び出しとクライアント SDK の組み込みに集約できます。音声、ビデオ、画面共有、チャットメッセージングの各機能を独立して利用でき、必要な機能だけを選択的に組み込める柔軟な構成です。
音声・ビデオ会議の実装
会議の作成は CreateMeeting API で行い、参加者の追加は CreateAttendee API で行います。クライアント SDK が WebRTC 接続を自動的に確立し、音声・ビデオのストリーミングが開始されます。公式ドキュメント記載の上限は、標準セッションが双方向参加者 250 人 (ビデオ 720p・画面共有 1080p)、HD セッションが 25 人 (ビデオ 1080p・画面共有 4K) です (2026 年 8 月時点)。加えてメディアレプリケーションで 1 つのセッションを最大 40 の複製セッションへ配信でき、標準セッションなら 1 万人規模の視聴へ広げられます。画面共有、コンテンツ共有、バックグラウンドぼかしの機能も標準で提供されます。アダプティブビットレート制御により参加者のネットワーク状況に応じて自動的に品質を調整します。ML ベースのノイズ抑制やエコー低減は、自前の音声処理基盤を用意せずに有効化できます (エコー低減は分単位の追加課金)。リモートワーク環境での会議品質を向上させる機能です。メディアパイプラインを使用すると、会議の録画を S3 に保存したり、Transcribe との統合でリアルタイムの文字起こしを実行したり、call analytics で Amazon Transcribe Call Analytics による感情分析や話者検索を利用したりできます。遠隔医療の診察、オンライン教育のライブ授業、カスタマーサポートのビデオ通話など、コミュニケーション機能を自社サービスの一部として提供するユースケースに最適です。
メッセージングとチャネルフロー
Messaging API は 1 対 1 のダイレクトメッセージからグループチャット、チャンネルベースのメッセージングまで多様なパターンをサポートします。メッセージの送受信、既読管理、タイピングインジケーター、ファイル添付、メッセージの編集・削除など、モダンなチャットアプリに必要な機能を API で提供します。チャンネルフロー機能を使えば、メッセージの送信前後に Lambda 関数を実行でき、コンテンツモデレーション、Amazon Translate による自動翻訳、ボット応答などのカスタムロジックを組み込めます。エラスティックチャンネルはメンバーを複数のサブチャンネルへ自動的に振り分けることで、大規模なブロードキャスト配信に対応します。公式ドキュメントに記載されたチャンネルあたりのメンバー数上限は 10 万人です (2026 年 8 月時点)。WebSocket によるリアルタイム配信で遅延を最小限に抑え、オフライン時のメッセージはプッシュ通知で届けます。メッセージの永続化は Chime SDK が自動管理し、履歴の検索やページネーションも API で提供されます。
PSTN 連携と Amazon Connect 統合
PSTN Audio は既存の電話番号との発着信を可能にする機能です。SIP メディアアプリケーションで着信時の処理フロー (IVR メニュー、Lambda による動的ルーティング) を定義し、電話からの着信を Chime SDK の会議に接続できます。Amazon Connect と組み合わせることで、IVR、ACD (自動着信分配)、エージェントデスクトップ、リアルタイム分析を備えた高度なコンタクトセンターを構築できます。Connect の Contact Lens 機能と連携すれば、通話のリアルタイム文字起こし、感情分析、キーワード検出を自動化し、スーパーバイザーがエージェントの対応品質をリアルタイムで監視できます。SIP トランクを介して既存の電話システムとの段階的移行も可能であり、一括置換のリスクを回避できます。
Chime SDK の料金
(2026 年 8 月時点。会議・メディアパイプライン・SIP メディアアプリの単価はバージニア北部と東京で同額。メッセージングは提供リージョンがバージニア北部とフランクフルトのみ、PSTN の電話番号提供はバージニア北部とオレゴンのみで、いずれも東京リージョンでは利用できません) Chime SDK には単一の月額料金がなく、使った機能ごとに課金軸が分かれた従量課金です。会議の WebRTC メディアは参加者 1 人あたり 1 分 0.0017 USD で、音声・ビデオ・画面共有のどれを使っても単価は同じです。セッションは 6 秒単位で計測され、最低課金は 6 秒です。30 人が 1 時間の会議を行うと 30 × 60 分 × 0.0017 USD = 3.06 USD になります。1080p ビデオと 4K 画面共有に対応する HD セッションは単価が別で、参加者 1 人あたり 1 分 0.0034 USD (標準の 2 倍) に加えて、セッション容量に対する 1 分 0.0001 USD がかかります。大規模配信に使うメディアレプリケーションは複製先セッション 1 つにつき 1 分 0.0085 USD (フル HD は 0.017 USD) が参加者分の課金に加算されます。録画などのメディアパイプラインは、合成録画がフル HD で 1 分 0.0125 USD・HD で 1 分 0.01 USD、参加者ごとの個別ストリーム取得が 1 ストリーム 1 分 0.0017 USD、録画ファイルの連結が 1 分 0.002 USD です。ML エコー低減は 1 分 0.0023 USD が加算されます。メッセージングは 4 つの軸で課金され、送信メッセージ 1 通 0.0007 USD、既読やタイピングなどのコントロール/システムメッセージ 1 通 0.000003 USD、配信先エンドポイント 1 件 0.00001 USD、メッセージストレージ 1 GB・月あたり 5 USD です。10 人が参加するチャンネルへ 1 通送ると送信 1 件と配信 10 件の両方が課金される点に注意してください。PSTN Audio は電話番号の月額に加えて、SIP メディアアプリケーションの利用が 1 分 0.002 USD、Chime SDK 会議への接続が 1 分 0.0017 USD、通話録音が 1 分 0.0028 USD、Voice Focus が 1 分 0.0045 USD で、通話分数の単価は国と番号種別ごとに異なります (米国の一般番号への着信は 1 分 0.002216 USD、米国フリーダイヤルへの着信は 1 分 0.011910 USD)。着信フローで呼び出す Lambda の実行料金は別途かかります。通話分析はバージニア北部でリアルタイム文字起こしを含む構成が 1 分 0.023 USD、通話録音のみの構成が 1 分 0.010 USD で、連携する Amazon Transcribe や Kinesis Video Streams、S3 の料金が別に発生します。無料利用枠はなく前払い費用も不要の従量課金で、一定量以上の利用をコミットする場合の割引は個別見積もりです。最新の単価は公式の Amazon Chime SDK 料金ページで確認してください。
まとめ
Chime SDK は自社アプリケーションに音声・ビデオ会議、チャットメッセージング、PSTN 連携を組み込むフルマネージドの通信 SDK です。WebRTC インフラの管理が不要な従量課金モデルで、遠隔医療、オンライン教育、カスタマーサポートに最適です。Amazon Connect との連携によるコンタクトセンター構築や、チャンネルフローによるメッセージ処理の自動化で、AWS エコシステムとの統合の深さと、使った機能の分だけを支払う課金モデルの面で有力な選択肢です。
参考資料 (AWS 公式)
本ページの一次情報は AWS 公式サイトおよび公式ドキュメントです。最新の仕様 / 料金は次の公式ページで確認できます。
本ページと公式ドキュメントの記述が食い違う場合は、公式ドキュメントを正としてください。