Amazon Forecast の需要予測 - 新規受付終了と SageMaker Canvas への移行、時系列予測の仕組み
Amazon Forecast は 2024 年 7 月 29 日に新規利用の受付を終了 (既存利用者は継続利用可)。公式の受け皿である SageMaker Canvas の時系列予測への移行と、Forecast のモデル構築・確率的予測・課金構造を解説します。
新規受付終了と移行先
Amazon Forecast は 2024 年 7 月 29 日をもって新規顧客の受付を終了しました。既存利用者はこれまでどおりサービスを利用でき、AWS はセキュリティ・可用性・パフォーマンスの改善は継続するとしていますが、新機能の追加は予定していないと公式に案内しています。これから時系列予測を始める場合の公式の受け皿は Amazon SageMaker Canvas の時系列予測機能で、AWS 公式ブログ「Transition your Amazon Forecast usage to Amazon SageMaker Canvas」に移行の考え方と手順が示されています。SageMaker Canvas の予測間隔は 1 分・5 分・15 分・30 分・1 時間・1 日・1 週・1 月・1 年で、タイムスタンプ列・ターゲット列・アイテム ID 列という入力の考え方も Forecast とほぼ同じため、データ設計はそのまま持ち込めます。加えてモデルリーダーボードでのアルゴリズム比較や、AutoML API による自動化にも対応します。本記事は既存 Forecast 環境の運用資料と、Forecast が採っていた設計を記録した歴史的資料として残しています。以降で扱う仕組みと数値は、既存環境の運用判断、および SageMaker Canvas へ移行する際の対応付けの参考として読んでください。
需要予測の課題と Forecast の位置づけ
需要予測は小売、物流、製造、エネルギーなど多くの業界で重要な課題です。従来の統計的手法 (移動平均、指数平滑法、ARIMA) は実装が比較的容易ですが、季節性・トレンド・外部要因の影響など複雑なパターンの捕捉に限界があります。深層学習ベースの手法 (DeepAR、Transformer) は高精度ですが ML の専門知識とモデルチューニングが必要です。Forecast は 2019 年 8 月に提供が始まったサービスで、時系列データをインポートするだけで AutoML が複数アルゴリズムを比較し、バックテストで最も精度の高いモデルを選ぶという割り切りが特徴でした。確率的予測で P10、P50、P90 の予測区間を返し、不確実性の定量化を通じてリスクを考慮した意思決定を支える設計も、この世代のマネージド予測サービスの中核でした。予測を「単一の数値」ではなく「分布」として扱う考え方は後継の SageMaker Canvas にも引き継がれているため、Forecast の設計を理解しておくことは移行後の設計にもそのまま役立ちます。
データ準備と予測モデルの構築
Forecast の利用はデータセットグループ (Dataset Group) へのインポートから始まります。ターゲット時系列 (必須) は予測対象のデータで、タイムスタンプ、アイテム ID、値 (販売数、需要量) の 3 列で構成されます。関連時系列 (オプション) は天候データ、プロモーション情報、価格変更などの外部要因です。アイテムメタデータ (オプション) はカテゴリ、ブランド、色などアイテムの属性で、類似アイテム間のパターン共有に活用されます。データは CSV 形式で S3 に配置し、スキーマ定義 (JSON) で各カラムの属性タイプとデータ型を指定します。タイムスタンプの粒度は整数 + 単位の組み合わせで指定します。データセット側の DataFrequency も予測側の ForecastFrequency も共通の形式で、分は 1〜59、時間は 1〜23、日は 1〜6、週は 1〜4、月は 1〜11、年は 1 の範囲を取り、15min (15 分ごと) や 2W (隔週) のような指定も有効です (2026 年 8 月時点の API リファレンス記載値)。ただし 60 分 = 1 時間のように 1 つ上の単位と重なる値は指定できません。ビジネス要件に合わせて設定し、予測ホライズンの単位と一致させます。データセットグループ内のデータセットは種類ごとに 1 つずつで最大 3 つ、ターゲット時系列の列数は必須 3 列 + 追加の予測ディメンション 10 列で最大 13 列という制約もあるため、ディメンション設計は最初に固めておきます。AutoML は DeepAR+、Prophet、ETS、NPTS、ARIMA、CNN-QR の 6 アルゴリズムでモデルを構築し、バックテストで最も精度の高いモデルを自動選択します。
確率的予測と What-If 分析
Forecast は点予測 (単一の予測値) だけでなく、確率的予測 (予測の不確実性を含む) を提供します。既定では P10 (需要がこの値を下回る確率が 10%)、P50 (中央値)、P90 (需要がこの値を下回る確率が 90%) の 3 分位点で予測を生成します。分位点は既定値に固定されているわけではなく、公式 API リファレンスによれば ForecastTypes で 0.01 から 0.99 まで 0.01 刻みの分位点を最大 5 つまで指定でき、平均値を返す mean も指定できます (2026 年 8 月時点の記載値)。在庫管理では P50 で通常の発注量を決定し、P90 で安全在庫を設定する活用が可能です。欠品リスクを許容できない商品は P90 ベース、在庫コストを最小化したい商品は P50 ベースで発注するなど、ビジネス要件に応じた意思決定を支援します。ただし指定した分位点の数は生成される予測データポイント数に比例し、後述の課金にも直接効くため、必要な分位点だけを選ぶのが実務上の勘所です。What-If 分析では「来月プロモーションを実施した場合の需要」「価格を 10% 値下げした場合の需要」といったシナリオ予測を生成できます。関連時系列の値を変更した複数のシナリオを並行評価し、施策の効果を事前に定量的に評価できます。
予測精度の向上
Forecast の予測精度は入力データの品質と関連データの充実度に大きく依存します。関連時系列データ (天候、祝日、プロモーション) を追加すると、外部要因による需要変動をモデルが学習し精度が向上します。Forecast には組み込みの祝日情報 (Holidays フィーチャライゼーション) があり、国コードを指定するだけで主要祝日の影響を自動で考慮します。アイテムメタデータ (カテゴリ、ブランド、価格帯) はコールドスタート問題 (新商品の予測) の緩和に有効で、類似アイテムの実績から新商品の需要パターンを推定します。Predictor のバックテスト結果で WAPE (Weighted Absolute Percentage Error)、RMSE (Root Mean Squared Error)、MAPE (Mean Absolute Percentage Error) の精度メトリクスが提供され、モデルの品質を定量的に判断できます。最適化に使うメトリクスは公式 API リファレンスの OptimizationMetric で WAPE・RMSE・MASE・MAPE・AverageWeightedQuantileLoss から選べるため、欠品コストと在庫コストのどちらを重く見るかに応じて指標をそろえます。バックテストウィンドウは最大 5 つまで設定でき、期間を分けて検証することで単一期間の偶然に引きずられない評価ができます。精度が不十分な場合は、関連時系列の追加、データの前処理 (欠損値の補完、外れ値の除去)、予測頻度の変更で改善を図ります。
ユースケースと業界適用
Forecast は小売、製造、物流、エネルギーなど幅広い業界で利用されてきました。小売業では SKU レベルの需要予測で在庫配置を最適化し、過剰在庫と欠品の両方を削減します。製造業では原材料の発注量予測で調達リードタイムを考慮した購買計画を策定し、サプライチェーン全体のコスト最適化に貢献します。物流業ではワーカーのシフト需要予測でスタッフィングを最適化し、繁忙期の人員不足と閑散期の余剰を防ぎます。エネルギー業界では電力消費量の予測で発電計画を立て、再生可能エネルギーの出力変動に対応したグリッド管理を支援します。Web サービスではサーバーのキャパシティプランニングにも応用でき、トラフィック予測に基づくオートスケーリング設定の最適化に活用されます。これらの設計はいずれも「アイテム ID ごとの時系列 + 外部要因の関連時系列」という共通の形に落ちるため、新規に同じ用途を実装する場合も SageMaker Canvas の時系列予測へそのまま置き換えて設計できます。
料金と制限の注意点
課金は 5 つの軸で構成されます (2026 年 8 月時点・バージニア北部および東京リージョン。AWS Price List API の実測では両リージョン同額)。1 つ目は予測の生成数で 1,000 件あたり 0.60 USD、2 つ目は生成した予測データポイント数で月間 10 万件未満が 1,000 件あたり 2.00 USD、10 万件超 100 万件未満が 0.80 USD、100 万件超 5,000 万件未満が 0.20 USD、5,000 万件超が 0.02 USD の階層制です。3 つ目はトレーニング時間で 1 時間あたり 0.24 USD、4 つ目はデータ取り込み量で 1 GB あたり 0.088 USD です。この 0.088 USD は取り込み時に 1 回かかる料金で、保存し続ける間に発生する月額ストレージ料金ではありません。5 つ目は説明可能性 (Explainability) の生成数で、月間 5 万件未満が 1,000 件あたり 2.00 USD から、1,000 万件超が 0.15 USD までの階層制です。階層の境界値まで含めた最新の一覧は公式の Amazon Forecast 料金ページで確認してください。請求額を左右するのはアイテム数そのものではなく、アイテム数 × 予測ホライズン × 指定した分位点数で決まるデータポイント数であるため、試算は必ずこの掛け算から組み立てます。AutoML は複数モデルをトレーニングするため手動でアルゴリズムを指定する場合よりトレーニングコストが高くなります。予測精度が十分な場合は、トレーニング頻度を週次から月次に変更してコストを削減します。制限面では公式のクォータ一覧 (2026 年 8 月時点の記載値) で、データセットグループ数 500、Predictor 数 500 (いずれも引き上げ申請可)、AutoPredictor 数 500 (引き上げ不可) です。データセットのインポートは S3 バケット内の全ファイルの累積サイズ 30 GB (引き上げ申請可)、ファイル数 10,000 (引き上げ不可) が上限です。予測ホライズンを決めるのは粒度ではなく系列長で、新規の AutoPredictor では 500 タイムステップとターゲット時系列の長さの 1/4 の小さい方、既存 AutoPredictor の再トレーニングおよびレガシー predictor の CNN-QR・DeepAR+・AutoML では 500 と 1/3 の小さい方、ETS・NPTS・Prophet・ARIMA では 500 と系列長から 1 を引いた値の小さい方です。トレーニング時間は大規模データセット (数百万行) で数時間を要することがあるため、運用スケジュールに余裕を持たせます。
まとめ
Forecast は時系列データから ML モデルを自動構築するマネージドサービスとして、従来の統計的手法の限界を AutoML で埋め、6 種のアルゴリズムからバックテストで最適なモデルを選ぶ設計を採っていました。関連時系列データと組み込み祝日情報で精度を高め、確率的予測で既定 P10/P50/P90 の予測区間を返し、What-If 分析でシナリオ比較を支えるという組み立ては、小売の在庫最適化から製造の調達計画、エネルギーのグリッド管理まで幅広く適用されてきました。新規利用の受付は 2024 年 7 月 29 日に終了しているため、これから需要予測に着手する場合は SageMaker Canvas の時系列予測機能から始めるのが公式の道筋です。既存の Forecast 環境を運用している場合は、データポイント数を基準にした課金構造の把握と、新機能の追加が予定されていない前提での移行計画の検討が実務上の要点になります。過去 1 年以上の販売実績が蓄積されているなら、まず SageMaker Canvas で同じデータを使った予測精度の検証から着手するとよいでしょう。
参考資料 (AWS 公式)
本ページの一次情報は AWS 公式サイトおよび公式ドキュメントです。最新の仕様 / 料金は次の公式ページで確認できます。
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