Savings Plans と Reserved Instances の損益分岐点 - 実測データで比較する最適なコミットメント戦略
Savings Plans と Reserved Instances の割引率、柔軟性、損益分岐点を実際の料金データで比較し、ワークロードの特性に応じた最適なコミットメント戦略の選び方を解説します。
2 つのコミットメントモデルの根本的な違い
AWS のコミットメント割引には Savings Plans と Reserved Instances (RI) の 2 種類があり、どちらも 1 年または 3 年の利用をコミットする代わりにオンデマンド料金から割引を受ける仕組みです。しかし、両者のコミットメント対象は根本的に異なります。RI は特定のインスタンスタイプ、リージョン、テナンシー、OS に対するコミットメントです。たとえば m5.xlarge の RI を購入すると、m5.xlarge の利用に対してのみ割引が適用されます。一方、Savings Plans は 1 時間あたりの利用金額 (USD/hour) に対するコミットメントです。Compute Savings Plans であれば、EC2、Fargate、Lambda のいずれの利用に対しても割引が適用され、インスタンスファミリー、リージョン、OS を自由に変更できます。この柔軟性の違いが、両者の使い分けの核心です。ワークロードが安定しており、インスタンスタイプの変更予定がなければ RI の方が割引率は高くなります。ワークロードが流動的で、インスタンスタイプやリージョンの変更が見込まれるなら Savings Plans が安全です。
割引率の実際の差を数字で比較する
割引率の差は、コミットメント期間と支払いオプションによって変わります。us-east-1 の m6i.xlarge (Linux) を例に、具体的な数字で比較します。オンデマンド料金は 1 時間あたり 0.192 USD です (2026 年 8 月時点)。1 年の全額前払いの場合、Standard RI は 0.121 USD/hr (37% 割引) で、EC2 Instance Savings Plans も同率です。AWS は EC2 Instance Savings Plans を「Standard RI と同じ最大 72% の割引」と説明しており、両者の割引率に差はありません。Compute Savings Plans はここから一段下がって 0.131 USD/hr (32% 割引) です。3 年の全額前払いでは、Standard RI と EC2 Instance Savings Plans が 0.076 USD/hr (60% 割引)、Compute Savings Plans が 0.088 USD/hr (54% 割引) になります。つまり割引の階層は金額の差ではなく「何を固定するか」で決まります。インスタンスファミリーとリージョンを固定するプラン (Standard RI・EC2 Instance Savings Plans) が最大 72%、コンピュートサービスを横断できるプラン (Compute Savings Plans・Convertible RI) が最大 66% という 2 段構えで、同じ条件で比べた実レートの差は 5〜6% です。この 5〜6% の差が、柔軟性のプレミアムです。月額 10,000 USD のコンピュート費用がある場合、Compute Savings Plans を選ぶと RI と比較して年間約 6,000〜7,200 USD 多く支払うことになります。この追加コストが、インスタンスタイプやリージョンを自由に変更できる柔軟性に見合うかどうかが判断のポイントです。
損益分岐点の計算方法
コミットメント割引の損益分岐点は、コミットした金額を実際にどれだけ消費できるかで決まります。Savings Plans の場合、コミットした時間あたりの金額を下回る利用しかなければ、差額は無駄になります。たとえば 10 USD/hr の Compute Savings Plans を購入し、実際の利用が平均 8 USD/hr であれば、2 USD/hr 分 (月額約 1,440 USD) が無駄になります。損益分岐点を計算するには、まず過去 3〜6 ヶ月の Cost Explorer データから、時間帯別のコンピュート利用額の分布を確認します。重要なのは平均値ではなく、最小値 (谷) です。深夜帯や週末に利用が落ち込むワークロードでは、谷の時間帯の利用額をコミットメント額の上限とするのが安全です。たとえば、平日日中は 15 USD/hr、深夜は 5 USD/hr、週末は 3 USD/hr の利用パターンであれば、コミットメント額は 3 USD/hr に設定し、残りはオンデマンドで賄います。Cost Explorer の Savings Plans 推奨機能は、過去の利用パターンから最適なコミットメント額を自動計算してくれますが、将来のワークロード変更 (新サービスのローンチ、リージョン移行など) は考慮されないため、推奨値をそのまま採用するのではなく、事業計画と照合して調整してください。
ワークロード特性別の最適戦略
コミットメント戦略は、ワークロードの安定性と変化の見込みに応じて使い分けます。安定した本番環境で、インスタンスタイプの変更予定がなく、3 年以上の運用が確実な場合は、Standard RI か EC2 Instance Savings Plans の 3 年全額前払いがコスト効率の上限になります。この 2 つは割引率が同じなので、選択の軸は割引の大きさではありません。Standard RI にしかない利点は、AZ を指定するゾーン RI がその AZ のキャパシティ予約を伴う点です。特定の AZ でインスタンスを確実に起動したい要件があるなら Standard RI、そうでなければ購入後の管理が軽い EC2 Instance Savings Plans を選ぶ、という切り分けになります。本番環境だが、Graviton への移行やインスタンスファミリーの変更を 1〜2 年以内に計画している場合は、EC2 Instance Savings Plans の 1 年契約が適切です。インスタンスファミリー内での変更 (m6i.xlarge → m6i.2xlarge) には対応でき、契約更新時に新しいインスタンスファミリーに切り替えられます。マイクロサービスアーキテクチャで EC2、Fargate、Lambda を組み合わせて使用しており、各サービスの利用比率が変動する場合は、Compute Savings Plans が最適です。割引率は低いものの、コンピュートサービス間で割引が自動的に適用されるため、アーキテクチャの進化に追従できます。
実践的なコミットメント管理のフレームワーク
コミットメント割引は「買って終わり」ではなく、継続的な管理が必要です。四半期ごとに以下の 3 つの指標をレビューしてください。第 1 に、Savings Plans のカバレッジ率です。Cost Explorer の Savings Plans カバレッジレポートで、コミットメント割引でカバーされている利用額の割合を確認します。カバレッジ率が低いほど、オンデマンド料金のまま払っている部分が多いということです。AWS が推奨閾値を定めているわけではありませんが、本記事では 60% を下回ったら追加のコミットメント購入を検討する目安としています。第 2 に、Savings Plans の利用率です。購入したコミットメントが実際にどれだけ消費されているかを示します。こちらも公式の基準はありませんが、本記事では 80% を下回ったらコミットメント額が過大と判断し、次回の更新時に引き下げる目安としています。第 3 に、RI のカバレッジギャップです。RI は特定のインスタンスタイプに紐づくため、インスタンスタイプを変更すると RI が未使用になります。未使用の RI は RI Marketplace で売却できますが、条件は緩くありません。売却できるのは Standard RI (リージョン RI・ゾーン RI) だけで Convertible RI は対象外、出品には売り手登録と米国の住所を持つ銀行口座が必要で、購入から 30 日以上経過し残存期間が 1 ヶ月以上あることも条件です。さらに販売価格の 12% が AWS の手数料として差し引かれるため、額面の全額は回収できません。この管理コストを考慮すると、RI よりも Savings Plans の方が運用負荷は低くなります。
参考資料 (AWS 公式)
本ページの一次情報は AWS 公式サイトおよび公式ドキュメントです。最新の仕様 / 料金は次の公式ページで確認できます。
本ページと公式ドキュメントの記述が食い違う場合は、公式ドキュメントを正としてください。