移行の一元管理 - AWS Migration Hub でクラウド移行の進捗を可視化する

AWS Migration Hub を使ったクラウド移行の一元管理を解説。移行進捗の可視化、Application Discovery Service との統合、移行戦略の選択支援を紹介します。

クラウド移行の管理課題

大規模なクラウド移行プロジェクトでは、数十〜数百のサーバーとアプリケーションを段階的に移行します。移行には複数のツール (サーバー移行に MGN、データベース移行に DMS、ファイル転送に DataSync、コンテナ化に App2Container) を使い分けるため、全体の進捗を把握することが困難になります。どのアプリケーションが移行済みで、どれが進行中で、どれが未着手なのかを一元的に管理する仕組みが必要です。AWS Migration Hub は、クラウド移行の進捗を 1 つのダッシュボードで可視化するサービスです。AWS の移行ツールやパートナーツール (CloudEndure、Turbonomic など) の進捗を自動的に集約し、アプリケーション単位で移行ステータスを追跡します。Migration Hub 自体は無料で利用でき、移行プロジェクトの管理オーバーヘッドを大幅に削減します。

Application Discovery Service による検出

移行の第一歩は、オンプレミス環境の現状把握です。AWS Application Discovery Service は、オンプレミスのサーバー、アプリケーション、依存関係を自動検出するサービスです。エージェントレス検出 (VMware vCenter 経由) とエージェントベース検出 (各サーバーにエージェントをインストール) の 2 つの方式を提供します。エージェントレス検出は VMware 環境で VM の基本情報 (CPU、メモリ、ディスク、ネットワーク) を収集する迅速な評価に適しています。エージェントベース検出はより詳細な情報 (プロセス一覧、ネットワーク接続、パフォーマンスメトリクス) を収集し、サーバー間の依存関係を自動マッピングします。検出結果は Migration Hub のインベントリに登録され、各サーバーをアプリケーションにグループ化して移行単位を定義できます。エージェントの同時実行数は 1,000 台まで、アプリケーショングループ数はアカウントあたり最大 1,000 です。

Strategy Recommendations と Refactor Spaces

Migration Hub Strategy Recommendations は、検出されたサーバーの情報 (OS、ミドルウェア、アプリケーションフレームワーク) を分析し、各サーバーに最適な移行戦略を推奨します。リホスト (Lift and Shift) はアプリケーションを変更せずにそのまま EC2 に移行する戦略で、最も迅速ですが最適化の余地が残ります。リプラットフォームは一部の変更 (マネージドサービスへの置き換え) を加えて移行する戦略です。リファクタリングはアプリケーションをクラウドネイティブに再設計する戦略で、最も効果が高いですが工数も大きくなります。Migration Hub Refactor Spaces は、リファクタリング中のトラフィックルーティングを管理するサービスです。既存のモノリシックアプリケーションからマイクロサービスを段階的に切り出す際に、API Gateway と NLB を使ったルーティングを自動構成し、ストラングラーフィグパターンの実装を支援します。 AWS マイグレーションの移行戦略を網羅的に学ぶなら、技術書 (Amazon)を参照してください。

移行の実行と追跡

Migration Hub のダッシュボードでは、各アプリケーションの移行ステータスをリアルタイムに追跡できます。ステータスは「未開始」「進行中」「完了」「失敗」で表示され、進行中のアプリケーションでは使用している移行ツールと進捗の詳細が確認できます。MGN (Application Migration Service) でサーバーを移行する場合、レプリケーションの進捗、テスト起動の結果、カットオーバーの状況が Migration Hub に自動的に反映されます。DMS でデータベースを移行する場合も同様に、レプリケーションタスクの進捗が集約されます。移行プロジェクト全体のサマリー (移行済みサーバー数、進行中のサーバー数、未着手のサーバー数) がダッシュボードに表示され、経営層への報告資料としても活用できます。Migration Hub は us-west-2 リージョンをホームリージョンとして使用しますが、移行先のリソースは任意のリージョンに配置できます。

大規模移行での Orchestrator とウェーブ計画

数百台規模のサーバー移行では、ADS でインベントリを収集した後、アプリケーショングループを作成し依存関係のあるサーバーをまとめます。グループ単位で移行ウェーブを計画し、依存関係のないグループから順にカットオーバーすることで移行リスクを低減します。Migration Hub Orchestrator はテンプレートベースのワークフローで移行手順を自動化します。SAP や SQL Server などのワークロード固有の移行テンプレートが提供されており、複雑なワークロードの移行を標準化されたプロセスで実行できます。Orchestrator のテンプレート実行自体は無料ですが、実行される各 AWS サービス (Step FunctionsLambda 等) の料金は別途適用されます。ダッシュボードのフィルタ機能でアプリケーション、サーバー、移行ツール別に進捗をスライスし、週次レポートとして経営層に報告するパターンが一般的です。

料金と制限の注意点

Migration Hub 自体は無料で利用できます。移行の進捗追跡、アプリケーションのグループ化、ダッシュボードの表示に追加料金は発生しません。コストが発生するのは、Migration Hub と連携する移行ツール (MGN、DMS、DataSync) の利用料金です。Migration Evaluator (旧 TSO Logic) によるオンプレミス環境の分析も無料で、移行前の TCO 比較に活用できます。Strategy Recommendations は移行戦略の推奨を提供し、こちらも無料です。Refactor Spaces は内部で作成される API Gateway と NLB のリソース料金が発生します。主な制限として、ホームリージョンは一度設定すると変更できません。

まとめ

AWS Migration Hub は、クラウド移行プロジェクトの進捗を一元管理するサービスです。Application Discovery Service による現状把握と依存関係マッピング、Strategy Recommendations による移行戦略の推奨、複数移行ツールの進捗集約、Orchestrator によるワークロード固有の移行自動化が主な強みです。無料で利用でき、移行プロジェクトの初期段階から導入することを推奨します。10 台以上のサーバーを移行する場合、アプリケーショングループとウェーブ計画を組み合わせ、リスクを段階的に管理しながらカットオーバーを進めることが成功の鍵です。