インテリジェント検索 - Amazon Kendra で社内ナレッジを横断検索する
Amazon Kendra を使ったエンタープライズ検索の構築を解説。自然言語クエリ、データソースコネクタ、RAG (検索拡張生成) との統合、OpenSearch との使い分けを紹介します。
エンタープライズ検索の課題と Kendra の位置づけ
企業内のナレッジは S3、SharePoint、Confluence、社内 Wiki、FAQ サイト、データベースなど多数のシステムに分散しています。従来のキーワード検索では、ユーザーが適切な検索語を知っている必要があり、「有給休暇の申請方法は?」のような自然言語の質問には対応できません。Amazon Kendra は ML ベースのインテリジェント検索サービスで、主要な業務システム向けのデータソースコネクタを標準で備え、自然言語の質問を理解して文書から直接回答を抽出して返します。対応言語は 2 層構造になっており、英語 (既定言語) に加えて 34 言語がキーワードマッチングの対象、そのうち英語・日本語・中国語 (簡体字と繁体字)・フランス語・ドイツ語・韓国語・スペイン語・ポルトガル語 (ブラジル) の 8 言語では、読解による回答抽出や信頼度スコアの付与を含む完全なセマンティック検索が使えます。たとえば「新入社員の健康診断はいつまでに受ける必要がありますか」という質問に対し、社内規定の PDF から該当箇所を特定して回答を提示します。OpenSearch (Elasticsearch ベース) が転置インデックスによるキーワードマッチングと集計・分析に強みを持つのに対し、Kendra は自然言語理解 (NLU) と機械学習による意味的な検索に特化しています。技術者がログ分析やメトリクス検索に使う OpenSearch と、非エンジニアのビジネスユーザーが社内ナレッジを検索する Kendra は、補完的な関係にあります。ただし Kendra は 2026 年 7 月 30 日に新規顧客向けの受付を終了しているため (既存顧客は継続利用可・2026 年 8 月時点)、これから新規に構築する場合は Amazon Bedrock Knowledge Bases が公式の受け皿になります。
データソースコネクタとインデックス構築
Kendra は主要な SaaS・オンプレミス製品向けのデータソースコネクタを標準提供しており、代表的なシステムとの接続がノーコードで完了します。S3 (PDF、Word、HTML、テキスト)、RDS/Aurora (データベースのテキストカラム)、SharePoint Online、Confluence、Salesforce、ServiceNow、Google Drive、OneDrive、Slack、GitHub などに対応しています。カスタムコネクタ API を使えば、独自のデータソースも統合できます。1 つのインデックスに登録できるデータソースコネクタ数の既定上限は Basic Developer Edition が 5、Enterprise 系が 50 で、インデックス自体もアカウントあたり 10 が既定上限です (インデックス数と Enterprise 系のコネクタ数は引き上げ申請が可能、Developer の 5 は引き上げ不可)。データソースの同期はスケジュール設定 (毎時、毎日、毎週) で自動実行され、新規・更新・削除された文書がインデックスに反映されます。ACL (アクセス制御リスト) をデータソースから自動取得する機能により、SharePoint や Confluence のアクセス権限がそのまま Kendra の検索結果に反映されます。ユーザー A が閲覧権限を持たない文書は、検索結果に表示されません。この透過的なアクセス制御は、セキュリティ要件の厳しいエンタープライズ環境で重要な機能です。
検索機能と RAG 統合
Kendra の検索結果は 3 つのタイプで返されます。 Suggested Answer は文書から抽出した直接的な回答で、該当箇所がハイライト表示されます。 FAQ Answer は事前登録した FAQ データベースからの回答です。 Document は関連度の高い文書のリストで、従来の検索結果に相当します。検索のチューニングでは、フィールドのブースト (特定のメタデータフィールドの重み付け)、ファセット検索 (カテゴリ、日付、著者でのフィルタリング)、同義語辞書 (シソーラス) の登録が可能です。 Kendra は Bedrock の RAG (Retrieval-Augmented Generation) パターンにおけるリトリーバーとして活用できます。ユーザーの質問に対して Kendra が関連文書を検索し、その文書をコンテキストとして Bedrock の LLM に渡すことで、社内ナレッジに基づいた正確な回答を生成できます。 Kendra の高精度な検索結果が RAG の回答品質を直接的に向上させます。
料金とエディションの選択
(2026 年 8 月時点・東京リージョン。月額は 730 時間換算) Kendra のインデックスには 3 つの種類があります。Basic Developer Edition は 1 時間あたり 1.125 USD (約 821 USD/月) で、10,000 文書または抽出テキスト 3 GB、1 秒あたり 0.05 クエリ (1 日あたり約 4,000 クエリ) に対応します。開発・検証環境や小規模な社内検索に適していますが、ストレージユニットやクエリユニットの追加購入には対応していないため、容量が足りなくなったら上位のインデックスへ移す必要があります。Basic Enterprise Edition は 1 時間あたり 1.40 USD (約 1,022 USD/月) で、100,000 文書または抽出テキスト 30 GB、1 秒あたり 0.1 クエリ (1 日あたり約 8,000 クエリ) に対応し、高可用性 (マルチ AZ) も提供されます。容量が足りない場合はストレージユニットとクエリユニットをそれぞれ 1 時間あたり 0.70 USD で最大 100 ユニットまで追加できます。RAG のリトリーバー用途で公式に推奨されているのが GenAI Enterprise Edition で、基本料金は 1 時間あたり 0.32 USD と大幅に低く、20,000 文書または抽出テキスト 200 MB から始めてストレージユニット (1 時間あたり 0.25 USD) とクエリユニット (同 0.07 USD) で拡張する構成です。ただし提供リージョンは米国東部 (バージニア北部)、米国西部 (オレゴン)、欧州 (アイルランド)、アジアパシフィック (シドニー) に限られ、東京リージョンでは選択できません。コスト設計で最も見落としやすいのは課金の止め方です。インデックスは作成した時点から課金が始まり、ストレージもクエリ容量も一切使っていない状態でも料金が発生します。一時停止に相当する操作は用意されておらず、課金を止める手段はインデックスの削除だけです。夜間や休日に止めて費用を抑えるという運用は成立しないため、検証環境は使い終わったらインデックスごと削除する前提で計画します。加えて Basic 系エディション (Enterprise・Developer) では、データソースの同期にコネクタ実行時間 1 時間あたり 0.35 USD と、スキャンした文書 1 件あたり 0.000001 USD が基本料金とは別に発生します。GenAI Enterprise Edition のコネクタ料金は 1 インデックスあたり月 30 USD の固定制で、月 500 時間までの同期がこれに含まれます。OpenSearch Serverless と比較すると、Kendra は自然言語検索の精度で優れますが、コストは高めです。検索対象が構造化されたログデータなら OpenSearch、非構造化の社内文書なら Kendra という使い分けが合理的です。
検索精度の調整と継続改善
エンタープライズ検索は、導入して終わりではなく、精度を継続的に高めていくものです。ここで先に押さえておきたいのが言語の制約です。同義語辞書 (シソーラス) の登録、利用者のフィードバックを反映するインクリメンタル学習、検索キーワードを補完するクエリ候補の 3 機能は、既定言語である英語のインデックスだけが対象です。日本語の社内文書を主対象にする場合、これらは使えない前提で設計します。日本語で使える調整手段は、メタデータフィールドのブーストによる重み付け、カテゴリや日付や著者でのファセット絞り込み、FAQ の登録による定型質問への優先回答、そして文書側のタイトルや見出しの整備です。検索ログを分析し、求める結果が得られていない質問のパターンを見つけたら、どの手段で埋めるかを切り分けます。特定部門の文書が上位に来ないならフィールドのブースト、頻出の定型質問なら FAQ、そもそも該当する文書が存在しないならコンテンツ側の整備、という判断です。英語ドキュメントが主体のインデックスであれば、同義語登録とフィードバックの活用まで含めた継続改善のループを回せます。設定を磨き続けることが、社内ナレッジを本当に活用できる検索体験につながります。
まとめ - Kendra の活用指針
Amazon Kendra は、ML ベースの自然言語理解で社内ナレッジを横断検索するインテリジェント検索サービスです。主要な業務システム向けのデータソースコネクタ、ACL による透過的なアクセス制御、FAQ 機能、Bedrock との RAG 統合が主な強みです。社内ヘルプデスクの問い合わせ削減、ナレッジマネジメントの効率化、カスタマーサポートの回答品質向上など、情報検索が業務のボトルネックになっている場面で効果を発揮します。既存顧客が新たにインデックスを立てるなら、Basic Developer Edition で小規模に検証し、本番規模では容量ユニットを追加できる Basic Enterprise Edition に移す進め方が扱いやすいです。提供リージョンが合致し RAG のリトリーバーとして使うのであれば、基本料金の低い GenAI Enterprise Edition が公式の推奨です。これから新規に構築する場合は、冒頭で触れたとおり Amazon Bedrock Knowledge Bases が受け皿になります。
参考資料 (AWS 公式)
本ページの一次情報は AWS 公式サイトおよび公式ドキュメントです。最新の仕様 / 料金は次の公式ページで確認できます。
本ページと公式ドキュメントの記述が食い違う場合は、公式ドキュメントを正としてください。